生クリームどら焼きと働き方

皆さま、こんにちは。
スリー・アールシステムの総務/国際貿易部の前本です。
ただいま「子なし時短社員」として働いているのですが、なんでそんな働き方を選んだの? というときのお話です。


人生は選択の積み重ねでできている。
「文系にする? 理系に進む?」
自分で「将来」というもの考える年齢になり、高校での専攻を決めるときも。
「この会社に入る? 他の会社の結果を待つ?」
これからの人生を左右することになる就職試験でも。
人生に関わるような大それた選択でなくても、例えば今日のお昼何食べようかな? という楽しみなことから、この失敗についてどう謝れば被害が少なく終えられるだろう? という逃げたくなるようなことも。

それぞれに理由を考えて、その理由を比べて、どちらか一方を選んできた。選択肢が増えることはあっても、どれか一つを選ぶということは変わらない。
選択とは、自分にとって最良のものを得る代わりに、他の選択肢を棄てることだった。
選ばなかった方は時に魅力的に見えてしまう。キラキラ輝いて見える選ばなかった未来を想像すると、今の自分がくすんで、ボロボロで、薄汚れた雑巾みたいに思ってしまうこともある。
それでも仕方ないのだ。自分はその時に最善と思った道を選んできたのだから。選ばなかった方に引き込まれそうになる身体にグッと力を入れて、覚悟を決めて前に進むしかない。

「二兎追うものは一兎をも得ず」ということわざが教えてくれる通り、欲張って両方取ろうとしたら、失敗してしまうのだ。
小さい頃から両親にも教えられてきた。「どちらか一つにしなさい」と。
私はこの三十年余りで、慎重に、欲張らず、どちらかを選ぶということが染みついていた。

そんな折、自分に結婚という人生の転機というのが訪れた。
彼の勤務先と私の勤務先は同じ市内だったので、今のまま働き続けることができた。「寿退社」という言葉が過去のものになりつつある世の中にあって、それが当たり前のはずだった。

今のペースで働いて、仕事と家事の両立はできないことではなかった。
でも、家に着いた途端に分刻みのレースがスタートして、チェックポイントを走り抜ける日々がずっと続いていくのを考えると、どんより気持ちが暗くなった。
お互いに時間がなくて、ケンカが増えてしまうんだろうな。
週末のどちらかは、平日に溜まった家事を片づけないといけないだろうな。
二人で過ごせるうちは彼との時間を大切にしたかったけど、きっとできないんだろうな。

それでもできないことはないんだろう。みんなそうやって働いてる。
それに不満を持つ自分は間違ってるんだろう。
でも、これでいいのかな……。

結婚しても今まで通り働きたいという人と、家庭の時間を長くしたいという人、子どもができるまでは働きたいという人、働かなきゃという人。思いも事情もみんな違っている。
私にとっては仕事も家庭も両方大切だったけど、どちらかに注力することで、もう一方の質が落ちてしまうのが嫌だった。
ぐるぐると考えた結果、私はどちらかを選ぶということに至った。

「会社を辞めようと思います」
考えた末に、私が選んだのは家庭だった。
おそらく、上司からすれば寝耳に水、といった宣言だったろうと思う。社内でもどちらかといえば――というよりも明らかに社交的なキャラで、飲み会や社員旅行の幹事は立候補するタイプの自分が、「家庭に入る」ことを考えているとは思われていなかった。

急きょ設定された社長との面談の日。
「今までお疲れさま」という事務的なやり取りを予想していた私に、返ってきた答えは意外なものだった。
「前本、二つ取っていいんだよ。両方取っていいんだから」
もう、どちらか一つに縛られる時代じゃない、と社長は続けた。
「今はいろんな働き方ができる時代だから。前本の場合は仕事と家庭で悩んでるけど、仕事を複数掛け持ちすることだってできる。今までは会社に行かないと仕事ができなかったし、制度的にも物理的にも、制約がたくさんあった。
でも今は違う。自分がやりたいことをできる時代なんだよ。あれもこれもしたいってのを、実現すればいい。
前本が仕事と家庭の両方を納得できるようにしたいなら、できるように働けばいい。仕事の時間を短くすればできるなら、そうしていい。いいか、両方取っていいんだぞ」

目から鱗が落ちる、とはまさにこのことだった。
「どちらか」を選ぶことが当たり前すぎて、そこに「両方」という答えがあるとは思っていなかった。それをしていいとも思わなかった。そんな欲張りなことをしたらバチが当たる、と思っていたのだから。
私はあまりにも、どちらか一方を取るべきということに、頑固になっていたのだと思う。

周りを見回してみると、「両方」欲張っているものはそこそこあった。
コンビニで見かけると買ってしまう生クリームどら焼きもその一つだ。空気を含みつつもどっしりしたどら焼きの生地に、ほっくりしたあんこ。上品なあんこの甘さに生クリームのコクが加わって、あんこ単体では出ない濃厚で後引く甘さになる。あんこと生クリームを一緒に食べようと考えた人は天才だと思う。
あなたのおかげで私はいま幸せをほおばっています、と名前も知らない過去の人に思いを馳せながら口に運ぶ。勝手な想像だけど、着物を着たお侍さんが恐る恐るあんこと生クリームを口に含み、「やや!」と目を見開いている姿を描いてちょっと笑ってしまうのだ。いや、さすがに江戸時代ではないのかも……。
アーモンドチョコレートだって、福岡のお土産の「通りもん」だって、それぞれ2つの「いいとこ」を合わせてる。ビュッフェなんて、2つどころか総取りだ。

なーんだ、とちょっと肩の力が抜けた。

両方取っていいという社長の言葉に後押しされて、私は正社員のまま勤務時間を短くして働かせてもらうことになった。
3Rでは、2016年から時短正社員制度を設けている。小さな子どもがいる社員でも、勤務時間を短くして正社員として働ける制度だ。そういう下地があったからこそ、社長はそのように言ってくれたのだと思う。

子どもがいないのに時短社員で働くというのは、3Rでも初めてのことだ。というより、全国的に見てもあまり例がないことではないだろうか?
「働き方改革」や「ワークライフバランス」という言葉が叫ばれているけど、これは単純に残業を減らせばいいという話ではないだろう。
残業を減らしてほしいと思っている人もいれば、もっと仕事をしたいという人もいる。男と女、年齢、独身と既婚者、都市部と郊外、子どもがいるかいないのか、それぞれ仕事と生活のバランスは違っている。
「前本の場合はどう働きたい?」と私の事情を汲んで今までにない働き方を示してくれた社長にも、実現するように調整してくれた上司にも、受け入れてくれた部署のメンバーにも心から感謝している。

どちらか一方ではない。
選んだ選択肢にしがみつくのでも、選ばなかった方をあきらめるのでもない。そんな覚悟はしなくていい。生クリームどら焼きだって、両方とも選んだからこのおいしさに出会えたのだから。
「両方欲張って良かったです!」と言えるように、新しい働き方に挑戦してみようと思う。

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